椿山亜季人の苦難日記
突然やってきた声に、誰かとドアを見れば、見知った二人が立っていた。

「あ、千歌、亜季人くん。」

「うわっ、ここ暑っ!」

千歌はうちわをパタパタさせている。

「モワってする…。」

亜季人くんは、千歌の後ろに立って、うちわからこぼれた風をあびている。せこいな…。


「…なんて顔してんの?気色悪い。」

暫し固まっていた亮介くんは、千歌の毒を聞いて一気にテンションを上げた。

「なんだよっ、二人とも!邪魔しにきたのか!?」

帰れコールをしながら、噛みついてきた亮介くんの顔に、千歌は持っていたコンビニ袋をぶつけた。


「いってぇ!冷てっ!」

「…アイス差し入れ!」


目をそらし気味に言う。

「おお!って、おい、普通に渡せよ!」

「ふんっ、甘いものでも食べて足りない脳みその足しにするがいいさ!あっ、ハーゲンダッツは私のだからな!」

「あぁ!?」

皮肉たっぷりに言う千歌。
…照れ隠しだ。素直じゃないなぁ。

その様子を笑いながら、ふと亜季人くんに目を向けると、
普段よりずっと素直で、優しい顔をして笑っていた。


これは、貴重なものを見たと思っていると、わたしの視線に気づいたのか、すぐに表情が戻ってしまった。


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