椿山亜季人の苦難日記

小さな欲(p62-

『今日の放課後、進路指導室の資料整理を手伝ってくれ。』


数学の授業の後、吉原先生に頼まれ、私は快諾した。亮介くんには、作業が終わったら行くと、約束して。

あまり会話がなくても、同じ場所にいたいと思ったからだった。



…甘かった。狭い進路室の床には、先頃届いたばかりの今年度入試の資料が大量に積んである。これを、地域別、国公立か私立かに振り分け、今棚にある昨年度の資料と入れ替える。


結構な重労働だ。


ほとんど背中合わせのまま、黙々と作業を進める先生は、口を開いたかと思えば嫌味…

「力がない」だの、「ひもの結びがゆるい」だのと。
でも、一言だけ誉めてくれる。
「言わなくてもやること見つけて進めてくれるとこは尊敬している。」


こういうことを言うとき、先生がどんな顔をしているのか見たことはないけれど、先生からも私を見られなくて良かったと思ってる。

きっと私は、異常なほど紅い顔をしているだろうから。
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