椿山亜季人の苦難日記
「先生っ、私の言ってること真剣に考えてください。」


恥ずかしさとか、許されないことだとか、もう、そんなことはどうでもよくなっていた。


「亮介くんを好きなら、先生の頼みごとを優先したりしません。」


ただ、『伝えたい』、そう思った。


「先生はいつも、そうやって、こっちを見ようとしないっ。ちゃんと見てください!」


今言わなければ、全て壊れたまま、私が止まってしまう気がした。


「…先生が好きですっ…」


伝えなきゃいけないと思えたのは、先生だけだ。




「…田崎」


ゆっくりと、こちらへ振り向いた先生の顔は、いつものような、無愛想な顔ではなく、


予想していた、困りはてた顔でもなかった。


それは、酷く苦しそうな顔。


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