椿山亜季人の苦難日記
『じゃあ、また明日!』

正門から、方向の同じ私と千歌は右へ、寄り道していく亮介くんはまっすぐ、手巻き寿司が待つ家へ真っ直ぐ帰る亜季人くんは左へと分かれた。



夏の夕方は明るくて、それでも昼間よりは幾分か涼しくなった風は、汗ばんだ腕を心地よく霞めた。


学校を出るとき、職員室の電気がついていた。きっと今日も遅くまで仕事しているんだろうな。

『お疲れさん。23時ぐらいに電話する。』


さっき、先生からメールが届いていた。絵文字も無駄な言葉もない質素なメール。


寂しいとは思わない。むしろ先生らしくて、ただ愛しくなるんだ。


23時には声が聞ける…


顔が緩む…。こうだから、亜季人くんにばれてしまったのかな。



「なんか機嫌いいね、日和。」


「えっ。」


あわてて隣を見ると、私と視線をあわせるように少しかがんで、千歌が笑っていた。

< 72 / 169 >

この作品をシェア

pagetop