椿山亜季人の苦難日記
玄関を出て、先生にお礼を言うと、彼女は一言、私に言った。


「田崎も、吉原くんも、もっと冷めた子だと思っていたわ。」


苦笑まじりに言って、車を出した。




彼は…、吉原先生はどうしているだろう。


最後に見たのは、叩かれて腫れた頬に、始まりの、あの時みたいに苦しそうで、悲しい顔。


初めて、欲しいと思った人、

そんな顔、させたくなかった人。


今、何を思っているのだろう。


メールも返ってこない。


電話も繋がらない。


ただ、あの表情だけが浮かんで、胸を締め付け続けた。
< 85 / 169 >

この作品をシェア

pagetop