椿山亜季人の苦難日記
その瞬間、噂話でざわついていた廊下は、静まりかえった。


音の中心にいた女は、長い前髪の隙間から、怒りに満ちた瞳を覗かせていた。


「…だまってろ…」


「何も知らないヤツが、勝手なことを言ってんじゃねえ!!」


怒りに奮わせた声を張り上げて、千歌はそのまま、屋上へと歩いていった。


いかにも不機嫌に足音をたてて。


「なんだよ、アイツ…」

「ウゼェし」


千歌が去って再びざわめきだした集団を、その後ろにいたアキさんが、静かに睨みつけた。

その視線は、ゾッとするくらい冷たくて、辺りはすぐにシンとした。


全く、あの二人は…。

てか俺、実は凄い人と友達なのかも…。


それにしても、あーぁ、俺が言いたかったのに。


チクショー、千歌め…。

< 89 / 169 >

この作品をシェア

pagetop