君がいた夏
夏
耳につく蝉の声たち。
蒸しかえるような不快な暑さ。
突き刺さるような日射し。
街中に溢れかえる“夏”を感じながら、私はメロンソーダに溶けかけたソフトクリームを一口すくった。
「はあ……」
特にわけもなくこぼれる、溜め息。
「……なに葉月。溜め息なんかついて」
私の前に座り、同じくフロートを食べている友人、細川麻奈は、そんな私を覗きこんで胡乱げな視線を向ける。
「……、べつに」
自然と彼女から逸れてしまう視線を、なるべく不審にならないように手元に戻しながら、私は少々無愛想ともとれる反応を返す。
今の言葉はある意味では正しい。特に明確な理由からでなく、何となく気分が乗らなかったゆえの溜息だったのだから。
「暑い?ごめんって。だって中は満席だったんだもん」
テンションの低い私の答えを、自分への不満と受け取ったらしい麻奈は頬を膨らませながら言った。
私たちは今、映画の帰りに寄ったカフェのテラスにある席に座ってフロートを食べている。
私がフロートを注文し、その間に麻奈が席をとる……はずだったんだけど。
クーラーのきいた涼しい店内の席をとれなかった麻奈は、この炎天下、テラスの席で私を待っていた、ということなのである。
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