君がいた夏
「……別に良いけど……」
確かに死ぬほど暑い、けど。
このテンションの低さは暑さのせいではないだろう。
「……はあ」
気付けばまた、溜め息がこぼれる。
「なにそんな辛気臭い顔して。この暑さなかそんな空気出されるともっと暑苦しいんだけどー」
「ああ……うん、ごめん」
そう謝りつつ、何やってんだ自分という呆れから、またこぼれてしまう私の溜息に、麻奈がなんとも言えない表情をする。
一向に変わらない私の表情を見て、麻奈が頬杖をつきながら声のトーンを落として言った。
「……やっぱり、まだ忘れられないの?陽平くんのこと」
その放たれた言葉に、あっさりと反応を示して動きを止めてしまう、私の手。
彼女の発した名前が、不自然なくらいに響き渡って聞こえた。
…………けれど。
「……はは、まさか」
私は普段と変わらぬトーンと表情で、そう、答える。
「もう忘れてるよ。随分懐かしい話引っ張り出してくるね?どんだけたったと思ってんの」
複雑な表情を浮かべ、黙って聞いてるのであろう麻奈を見ないように、目の前のフロートをすくいながら答える。
「……そう。なら良いけど」
いつもの溌剌さはどこへ行ったんだと言いたいくらい静かな麻奈の声が聞こえた。