君がいた夏
「も……もしもし?麻奈?どうしたの?」
内心かなりびくつきながら母から受話器を受け取ると、聞こえて来たのは普段通りの彼女の声だった。
『どうしたのじゃないでしょ、別にどうもしないけど』
「……え?」
戸惑いを隠せない私とは裏腹に、麻奈の声は冷静そのもので。
『私の事じゃなくて葉月のこと。何か報告することあるんじゃないの?』
「報告……?」
『……とぼけたって駄目だからね。この間ハンバーガー屋にいたのを、ちゃんと見たんだから』
そこまで言われて、ようやく私は何の事か思い当たった。
「あっ……もしかして、陽平のこと?」
『……名前は知らないけどさ、多分それ。犬みたいなイケメン』
犬みたいというたとえに首を傾げるも、確かに思い浮かべると、陽平は笑うとなかなか愛嬌ある顔になるので、犬みたいという表現もわかる気がする。
「……で、陽平がどうしたの?」
『どうしたのじゃないでしょ!よかったじゃん葉月!彼氏出来たなら早く報告してよもう!』
一気にテンションが上がってトーンと早さと大きさが上がった声が受話器から鳴り響いてくる。
彼女の勢いに押されつつ、とりあえず反応したのは
「か、彼氏……?」