君がいた夏
『えっ?彼氏でしょ?』
受話器から聞こえる、麻奈のきょとんとした声。
「いや……彼氏ではないけど……」
そいい言いつつ私は初めて、周りからはそんな風に見えていたのかと思い至った。
『ええ?彼氏じゃなかったの!?』
……麻奈が叫んだせいで耳がキーンとする。
「うん……彼氏、ではないよ」
そう答えるのが、少し切なく感じたのは何でだろう。
『うっそ、信じらんない。あんなに楽しそうに男と話す葉月初めて見たから、てっきりそうだと思っちゃった』
「……そう?」
『そうだよ!葉月は、その、陽平君?のこと、何とも思ってないの?』
「………………」
そっか。あんまり考えなかったけど確かに……。
確かに、陽平と話してると楽しいし、陽平の事を知りたいって思うし、それまで関わってきた男の人たちとは違うって思うし……。
私……陽平の事、好きなのかな?
黙りこんでしまった私をどう感じたのか、麻奈が言う。
『……まあさ、手を打つなら早くした方がいいと思うよ?彼結構イケメンだし、もたもたしてると他の子にとられちゃうかもよ?』
「と、とられちゃう?」
麻奈の色々飛躍した言葉に頭がついていかない私だったけど、そんな私をほっぽって、麻奈は会話を締める。
『んじゃあ、今日はこれくらいで失礼!今度会ったら話聞かせなさいよ!』
ガチャン。
ツー、ツー、ツー……
嵐の様に来て、嵐の様に去っていった麻奈に、私はしばらくそのまま受話器を握りしめていた。
……うん、でも、気付いてしまった。
これまで考えなかっただけで。
私、陽平のこと、好きなんだ。