君がいた夏
「やばいやばい!もう30分もない!」
大急ぎで店を出る麻奈。私も慌てて後に続いた。
彼女は、店の前の大きな交差点の赤信号を見て焦った表情をしている。
私の家は、この交差点を渡らない場所にあるので、彼女とはここでお別れだ。
麻奈の半歩後ろに立って、見送るようにしている私に気付き、麻奈が言った。
「葉月、今日はありがとう!」
「こちらこそありがと!楽しかった」
「また行こうね!今度はカラオケとか」
「うん!暇な日教えて」
私がそう言ったとき、電子音が流れて信号が青に変わる。
「あっ、じゃあ、行くね!バイバイ!」
「うん、またね!」
私に大きく手を振りながら、肩上で切り揃えた短い髪をなびかせて麻奈が走って行くさまを、私はしばらくそこで見送っていた。
……塾、か……。
彼女が去り際に残した言葉を反芻する。
そうだよね。もう高校2年の夏だもんね。
麻奈は確か、国際情報科とかいう学部がある大学を目標にしてるんだと言っていた。
目標をしっかりと定めて、そのためにきちんと努力をしている彼女の姿は、私にはすごく……すごく、進んだ遠い存在に思えた。