君がいた夏





     *   *   *



「ふぅ……」



湯船に首まで浸かり、息をついた。



さっぱりとして、こんな時間なのに目が覚めてしまった。



……まあ良いか、寝坊したって、どうせどこにも行く予定なんて無いんだから。



毎日バカみたいに図書館に通ってた去年の夏休みとは違い、今年は麻奈と映画見たっきり、家からほとんど出てない気がする。



家から出るのが……辛いから。



そんな事をしているうちに、長いと思っていた夏休みは二週間半ほど過ぎ、あと一週間で新学期が始まろうとしていた。




……そう言えば、明日は辻子海岸の花火大会だっけ。



陽平と、浴衣で行くと約束した、あの花火大会。





……なんて、覚えていても意味がないのに。



ああ、馬鹿みたい。もうやだよ。




いつまでも、私の中には君との思い出がこびりついていて。



剥がそうとしても、ますます深く、私の傷を抉って。



……ほら、また。




君の笑顔を思い出して、息をするのも苦しくなる。



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