君がいた夏
“……やっぱり、まだ忘れられないの?陽平くんのこと”
ついさっき、麻奈に言われた言葉を思い出す。
忘れられない?そんなことない。
もう、忘れたもの。
何度も何度も期待して、けれどその全てをこっぴどく砕かれて。
だから私は、みっともなく思い出に縋らずに、潔く忘れることを選んだ、そう、選んだんだ。
だからこれは決して、彼を思い出しているんじゃなくて、そう、余りにも夏が溢れているから、ちょっと混乱してるだけ。
そう。忘れたんだ。
ぐるぐると自問自答を繰り返す。
もう無縁となったはずの、胸の痛みと息苦しさが蘇ったような気がした。
──陽平。
山内陽平。
脳裏にちらつくその名前の人を、私はとっくに忘れた、筈だったのに。