君がいた夏
そう。ちょうど、今目の前にいるあの男の人くらいの身長で。
あれくらいの髪の長さをしてて。
あんな風に身軽に歩いて。
(……あれ……?)
似てるな、と思ってなんとなく視線を向けた男の人の後ろ姿を、私は引っかかりを覚えてまじまじと凝視した。
「陽平……?」
その、名前が口からこぼれる。
気がついたら、私は走り出していた。
もしかして、もしかして。そんな想いだけが、私の身体を支配する。
こんなところにいるはずない、とか、そんな理性は吹き飛んでいた。
必死で追いついて、声をかけようと横顔を覗きこんで……。
「…………あ…………」
突然走ってきた私を、変なものを見るような目でみるその人は。
──記憶のなかにあるその人とは全然違くて。
「……ごめんなさい……」
驚かせてしまって、という意味をこめて、辛うじて声を振り絞ると、その人は立ち止まる私を不思議そうに見て、そのまま立ち去っていった。
……馬鹿みたい……。
走ったことによる息苦しさとは別の種類の、胸の痛みが存在を主張しだす。
さっきまで忘れたと言い張っていたのに、似た後ろ姿の人を見つけて必死に走り出して、しかも全くの別人だなんて、馬鹿だと、滑稽だとしか言い様がない。
よく見れば、あの人が私の求める人とは違うことなんてすぐにわかる筈なのに。