君がいた夏
そう言おうとしたけど、言わなくても陽平に伝わったみたいで、陽平もポツリと呟く。
「……俺も。もう会えないかと思ってた」
……そうか、私が陽平の電話番号も何も知らなかっただけじゃなくて、陽平も私の電話番号も、家も知らなかったんだよね。
「会えて良かった。……葉月、ちゃんと約束通り浴衣で来てくれてるし」
「う、うん」
改めて言われると……少し、恥ずかしい。
「葉月……一年も放っといて今さらなんだけど、俺……また、葉月の彼氏になりたい」
……え。
それって……
「……わ、私……まだ、陽平を好きでいて良いの……?」
考えるより先に、言葉が飛び出していた。
……だって、この夏が終わったら、今日が終わったらって、ずっと、必死に思ってたから……。
私の言葉に、え?と言うように陽平が視線を向けてきた。
「私こそ……、また、陽平の、か……彼女、に、して下さい……!」
今度はちゃんと言い直すと、陽平は珍しく顔を赤くした。
「……いっ、いいの?俺、てっきり葉月、もう他の奴にとられてるかと……」
……それは私の台詞だよ、陽平。
「本当に、俺で良いの?」
肩を掴まれ、真っ直ぐに見据えられる。
私も真っ直ぐ頷いた。
……それどころかね、陽平、私は君じゃなきゃだめなんだよ。
そう言おうとする前に、また引き寄せられて、さっきよりも強く抱き締められた。
「……俺、もう二度と葉月から離れないから……」
耳元で囁かれたのか、それとも陽平が呟いたのか。
私はその言葉に、幸せな気持ちで頷いた。
──夜空に、一際大きな花が咲いた。