星月童話
清川さんに連れて行かれたのは施設内にある居住スペースだった。ここでは何人か生活している。
わたしはここではない場所で生活をしている。ここにはまだ来れないはずだった。
「さあ、この部屋だよ」
清川さんは一つの部屋の前で立ち止まるとドアをノックした。
「七斗、いるのかな?」
声をかけるとドアがゆっくりと開いた。
「いるよ」
顔を覗かせたのはわたしと同じくらいの男の子だった。少し長めの髪を緩く纏めている。
「この子が珠理ちゃんだ。仲良くするんだよ」
清川さんはわたしの手を離すとそっと背中を押した。
「ふうん……。七斗。よろしくね」
七斗くんは表情を変えずにそう言った。
「珠理です。よろしくお願いします」
わたしは頭を下げて挨拶をした。
「じゃあ、珠理ちゃん。部屋の中に報告書があるから、それを夜書いて次の朝に提出してね。毎朝、俺が様子を見に来るから」
「はい」
返事をすると清川さんは微笑んだ。
「よし、イイコだ。俺はもう行くからね。生活の詳しい話は七斗から聞いて」
「はい」
清川さんはわたしの頭を撫でると、小さく手を振って去っていった。