星月童話
清川さんの茶色の髪は男の人にしては長いと思う。束ねているわけではないから、いつも前髪が顔にかかっている。揺れるたびに邪魔そうだな、と思う。わたしの前髪は眉毛の上で切り揃えられているから、邪魔じゃない。
「えっと……」
「思ったままを口に出していいよ。今は考える必要はないよ」
わたしは七斗くんに言われるまま思ったことを口に出した。
いつもは清川さんに一度考えてから話すように、と教えられている。だから、わたしは言葉が少なくなってしまう。
「やっぱりそうだよね。切ればいいのにね」
「七斗くんも長いですね」
でも纏められているからか、邪魔そうだなとは思わない。
「ああ、翔太がそうしたからね」
「翔太さんが?」
「そう。今夜にでも顔を出すんじゃないかな。変な人だけど気にしちゃダメだよ」
七斗くんはくすりと笑った。初めて、表情が変わった。
「楽しみです」
「五月蝿いよ。気にしたら負けだと思っているからね」
そう言いながらも七斗くんの表情は柔らかい。
「さあ、君は夕飯の時間だ。食堂に行っておいで」
「七斗くんは?」
「僕は行かないって教えたでしょう。早く行っておいで」
「はい」
七斗くんに見送られ、わたしは部屋を出ると食堂へと向かった。