星月童話
今までよりも食堂への道程が長くなった。それだけのことなのに、わたしはひどく心細くなる。
「珠理さん」
名前を呼ばれ、わたしは立ち止まった。
「食事ですか?」
白衣を着た新野さんは微笑むとそうわたしに訊いた。
「はい。新野さんもですか?」
いや、と新野さんは首を横に振る。
「僕はまだです。これから資料を取りに行くところなんですよ」
新野さんは院生、と呼ばれている人で、ここで仕事と勉強の両方をしているらしい。専ら教授たちの使いっぱしりです、と以前新野さんは言っていた。
「ワンピース、着てくれたんですね」
新野さんは嬉しそうな顔でわたしが着ているワンピースを見た。
「はい。ありがとうございました」
「いえ。よく似合っていますよ」
わたしと仲良くなりたいからプレゼントしてくれたんですか?
そう訊こうとして一度考えた。どんな答えが返ってくるだろう。その答えにわたしはきちんと返せるだろうか。
「では、僕はもう行きます。ごゆっくり」
考えているうちに、新野さんは背中を向けてしまった。
「……さようなら」
わたしはそれだけを新野さんの後ろ姿に送った。