送り狼

追憶の夏祭り


「ガラガラガッシャーーーーーンっ!!」


「………」


「……これで4回目だね……」

鳴人は呆れた視線を、この騒音を奏でる張本人に送る…。


古い民家にある土間の床は

鍋やお玉などの調理器具、

そして、料理にもなりきれていない食材が散乱し

見るも無残な状態だ。


「……な、鳴人ぉぉ~~~~」


顔や手、服や髪に、食材をべったりと付けた真央は

潤んだ瞳で鳴人を見上げている。


『…料理を作るのに、こんな風になるなんて漫画だけの世界かと思った』


鳴人はある意味感心しながら軽蔑の目を真央に向けた。






ーーーうぅぅぅ…。

鳴人の視線が痛い…。


私は、散乱した調理器具を一つずつ拾いながら、

自分の料理の才能の無さを、実感していた。

今更ながら、女子力という物を全く身につけて来なかった自分を

本気で恨めしく思う…。


そんな私が料理を作ろうとしているなんて

もはや、奇行に近い事だ。

どれぐらいの奇行かと言うと

『殿のご乱心』に匹敵する程だ。



そう、私は、おかしいのだ…。


銀狼への恋心を自覚したあの日から…。



その『ご乱心ぶり』はあの空中散歩の直後から発揮されていた。

「…ぎ…銀狼!!

 明日の夜、またうちに来ない?

 何か作ってあげる!!

 一緒に食べようよっ!!

 何が食べたい??」


ろくに料理を作った事も無い癖に

見事な乱心ぶりである。


そんな、私に、奴の出したリクエストは…。


「…筑前煮…」


ひぇっ!?

料理初級者の私に、そんな上級者向けの料理なんて作れるはず無かったのだ…。


「…あぁ…!筑前煮ねっ!!任せてっ!
 
 じゃぁ、明日の夜、楽しみにしててね♡」


こんな見栄っ張りな自分が恨めしい…。


弱り果てた私は、今朝も私の為に朝食を運んでくれた

微妙な関係の鳴人にすがりつくしかなかったのだ。


「…もぅ…君ね…料理の才能無いんだから諦めたら?」


背中に鳴人の冷たい視線を感じて懇願する。


「う…ぅぅ…鳴人ぉ~、お願い、見捨てないでぇ」


もう二度と、

『銀狼と会う約束を取り付けた上に、女子力を見せつける、一石二鳥作戦!♡』

なんて事は考えまいと、心に誓う。


ただ…

あの時は、美しい世界を見せてくれた銀狼に

私も何かしてあげたいって本当に思ったんだ…。


それは紛れもない真実。


でも、くだらない邪念はくだらない作戦を呼び…


この始末だ…。

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