送り狼
「…うん…。まぁ、まぁだな…」
『鳴人の作った筑前煮』を一口、口に運んだ銀狼が切れ長の瞳を
少しだけ見開いてそう言った。
「…で、でしょう?大変だったんだからね!」
大変だったのは本当だ。(あれもこれもひっくりこかしたりして)
多分、私が本当に、この料理を作っていたのなら
苦労して作った料理を『まぁまぁ』なんて評価する奴は許さないと思う。
許せてしまうのは…そう…
『わたしは、煮込んだだけ…』
だからだ。
銀狼のそんな反応を見ながら、私も、『鳴人の作った筑前煮』を口に運ぶ。
「!!!」
まぁまぁだなんて、銀狼の奴め……
メチャクチャ美味しいじゃないか!
これから先、銀狼の舌をうならせる事は、私には不可能かと思われる…。
そんな中、私の中である疑問が…。
「ねぇ、銀狼?そう言えばさぁ、
普段、何食べて生きてんの?」
銀狼のあの狭い社にキッチンがあるとは思えないし…。
まさか、山から、動物を狩って来て丸焼きとか?
まさかね…。
銀狼は私の質問に顔色一つ変えず答える。
「あぁ、俺たち神や妖しは普段食事はとらない」
「えっ!?食べなくても生きていけるの!?」
これは驚きだ。
「俺たちは、うつつの世界を生きる者だ。
お前達人間のように、生もなければ死もない。
だから…食事も必要ない」
「……何だかよく解らないんだけど…。
それって死なないって事?」
銀狼の言う事は、いつも私にとって難しすぎる…。
訝しげな表情で、見つめる私に、銀狼は瞳を細め笑って見せた。
「そうだな…。俺達は、人のように死んだりしない。
その変わり、自分の役目が終われば、無に帰る…。
それは、お前達の言う、死とは、また少し違うのだろうな…」
そう言う銀狼の瞳が、なんだか少し、寂しく思えた。
「……ねぇ!!銀狼!!今度は何が食べたい!?」
「…??どうしたんだ?突然?今食べてるだろう?」
「今じゃなくてっ!!次だよ、次っ!!」
「…急にそんな事言われても…」
うろたえる銀狼を無視して私は『う~~~ん』と考える。
「あっ!そうだっ!!
今度はカレーを作ってあげるよっ!!」
「かれぇ…?」
そう言って、小首を傾げて見せる銀狼はなんだか可愛い。
「そう!カレー!!知らないの?」
金色の瞳が困惑の色に染まる。
「なんだ、それは?聞いた事もない」
「えぇーっ!?すっごく美味しいのに!!
じゃぁ、次は銀狼にカレーを食べさせてあげるよ!」
カレーなら、私一人でも作る事が出来る!
私は、寂しそうな瞳をする銀狼に、
今度こそ自分の力で何かしてあげたくて仕方なかったんだ。
私はニッコリ銀狼に微笑む。
それを見た銀狼は……
一瞬何か言いかけたようだったが、それを飲み込んで
優しく微笑返した。
「かれぇ…か。楽しみにしていよう…」