送り狼

「ぴゅ~~ひょろろ~」

笛の音がする…

これは……

祭囃子……??

そして…

「ざわざわ…」

人々のざわつく声…

明らかに…

おばあちゃんの家じゃない…。

私は恐る恐る、固く瞑った瞳を開いた…。


「大丈夫か…?」

銀狼は私の手を握ったまま、私を覗き込んでいた。

「…ここは…??」

辺りの気配の変わりように周囲を見回す…。


「……はあぁぁ……!!」


思わず、私の口から歓声が漏れた…。


淡い優しいオレンジ…

浴衣姿で円を作り、踊る人々…

子供達が、キャッキャと楽しそうに走りまわっている…。


深い木々に囲まれた犬神の社…。


今宵は、優しいオレンジに包まれ、沢山の笑顔がそこにある…。


「…な…何…!?これは、どういう事っ!?」


私の知っている犬神神社は二通り…。

雑草や苔の茂った潰れかけの神社か…

蒼白く不気味で無音の世界かの、どちらかだ…。


でも…

今、私の目の前に広がる光景はそのどちらでもない…。


これは……。


驚く私に、得意気に銀狼が語りかけた。


「…そうだ…。あの絵の世界だ…」

「…絵って…写真っ!?」

ニヤリと銀狼が笑う。

「そうだ。あの絵と、俺の記憶…。

 それを俺の力で具現化した」


これはたまげた!!(驚いた)


銀狼を良く見てみれば、彼も、いつもの重苦しそうな水色の袴でない事に気付く…。

いつの間にかあの写真で見た、軽装な浴衣姿だ…。


「お前は全て忘れてしまっているようだからな。

 だから…もう一度この時を…

 お前とやり直そうと思った」


銀狼の言葉が優しく私の胸に広がって行く…。

彼が…そう思ってくれた事が…

何より嬉しい…。


私の胸が暖かい……。


「銀狼っ!!出店が出てるよっ!

 一緒に見てまわろうっ!」

私は、銀狼と繋いだままの手をグイグイと引っ張った。


「あっ…おいっ!」

私に引っ張られた銀狼は、困ったようにそう言ったが…

すぐにその整った顔に笑顔を浮かべ、大人しく私に従う。


犬神神社は、山神神社のように広大ではない。

こじんまりとした所に、数店の出店が出ている。

美味しそうな屋台飯の香りが私の鼻をくすぐった。

「あぁ~。こんな事なら、ご飯食べて来なきゃ良かったよ」

残念そうにそう呟く私を、銀狼が笑う。

「本当に…
 
 お前は相変わらず、色気より食い気だな」

…!!

失礼な!!

相変わらずって…

おばあちゃんもそうだったのかな…?

僅かに表情を曇らせる私に、銀狼は気付くはずもない。

「食べるのは無理でも…

 こういうのなら出来るだろう…?」


そう言って銀狼が指差したのは、

お祭りの王道『射的ゲーム』!!


自慢では無いけれど、私は女子力皆無な代わりに

こういう事だけは得意なのだ!


チラっと銀狼を見上げる。

「…??」

不思議そうに見返す銀狼に私は呟いた。


「勝負よっ!!銀狼っ」















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