送り狼
銀狼のその言葉に、私の中の小さな違和感がはっきりとした。
そう…
私は知っているのだ…
この光景を…
「……!!」
私は助けを求めるかのように、銀狼を見つめる!
何故っ!?
どうしてっ!?
私は経験した事の無い事を
『知っている』と思っているし、
見たことのない光景に
『懐かしさ』を感じていたのだ。
この感覚は、あの時のように『夏代子』に乗っ取られた時のものではない。
あの時、私は意識はあっても、
私の意志で動く事は出来なかった…。
でも…今は違う……。
私は私の意志で動いているし、
その記憶は、当たり前に私の中に存在していたかのようだ!
今まで感じていた事とは明らかに異なっている…!
私は自分に起こった異変に恐怖を感じずにはいられなかった…。
小刻みに震えだす私を、銀狼が心配そうに見ている。
「……真央…」
そして……
私は、その心配そうに揺れる金色の瞳にすら、懐かしさを感じているのだ…。
訳が解らない…。
青ざめる私に銀狼が呟く。
「…具合が悪いのか…?
ならば、戻ろう…」
私を抱きかかえる銀狼に、静かに瞳を閉じる…。
『あなたは…
今も昔も…
私に優しすぎるぐらいに、優しい…』
淡いオレンジが…
賑やかな祭囃子が…
「ゴオオオオーーーっ!!」
というけたたましい風の音にかき消されて行く…。
私は一体どうしてしまったのだろう?
『君がどう思おうが…
物語は始まっているんだよ』
鳴人の言葉が頭の中で繰り返される…。
『ついに…
その時が来たのかもしれない』
それは、意識の奥底に封印してあった記憶の扉から、
少しずつ漏れ出すかのように…
今の私を確実に侵食して行く…。