送り狼


腕がきしむっ!



私の本能がこのままじゃ、ヤバイと警笛を鳴らす。



「いったっっ!!離してっ!!」




相手の腕を振りほどこうともがくけれど、ガッチリ押さえ付けられて外せないっ!


それならっ!

と、自由になっている足で、勢い任せに相手を思いっきり蹴りつけた!



「…っつ!!」



一瞬、私を掴む手が緩む。



そのスキに、相手の腕を払いのけ、

そのままクルリと相手に向き直り、睨みあげた!!

《その顔、拝んでやるっ!!》

声で相手が男だとは解ってはいたけれど

初めて見る男のその容姿に、私の驚きは隠せなかった。



淡い水色の袴に身を包んだその男は、切れ長な瞳が印象的だった。

180センチは超えてそうな高い身長に、スラリと長い手足。

腰まである長い銀髪がよく似合う……。



ーー熊みたいな男かと思ったら………



だからと言って、美男子は、何しても許されるって訳じゃない!!


気を取りなおし、怒声をあげる!



「さっきから一体何の話!?ただの人違いでもここまでされれば大迷惑よっっ!!」



私の言葉に一瞬、男の動きが止まった。



「【人違い】…だと…??」



押し殺すような小さな声だった。



「…嘘でも、もう少しマシな嘘がある…だろう…??」



怒りで声が震えているようだ。



相手はひるむ所か、至って真面目なようだ。



なんか……やばい…??



「…ちょ、ちょっと待ってっ!」



相手が次の言葉を発するのを、あわてて遮った。



「あたし、あなたと今が初対面なんですけどっ!!」




「……っっ!!!」



男は、鋭い眼差しで私を睨む。

切れ長の瞳がまるでナイフのようだ。






「…お前は、俺との事を無かった事にしたいのだな…。」





男の瞳にはあきらかに憎しみが込められていた。




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