送り狼
「…何…?
君ってもしかして、体育会系のオス(雄)系?」
背後からする、訝し気な声に、私は待ってました!とばかりに
向き直る。
「おはようっ!鳴人!」
「…何…?
一体何なの…?
昨日も今日も、気持ち悪いんだけど…」
「今日の方がより気持ち悪い」と嫌な顔を向ける鳴人に
私は満面の笑を返す。
「待ってたよ!」
ニンマリと笑う私に鳴人は嫌な予感でもするのか
怪訝な顔付きで私を見る。
「…こんな時間から、玄関先で?
一体どういう風の吹き回し?」
「………山神に合わせて欲しいの…」
「………」
突然切り出した私の発言に鳴人の瞳が大きく見開かれる。
「……どうしても、山神に確かめたい事があるの…。
お願い、鳴人、山神に会わせて…!」
真っ直ぐな眼差しを鳴人に向ける…。
鳴人も、そんな私を睨み返すような顔付きで私を見つめている…。
暫く、無言でお互い向き合っていた…。
「………ふん…」
やがて、鳴人が瞳を伏せ、鼻を鳴らしながら続けた。
「……ようやく…、やるべき事が決まったみたいだね…。
…いいよ…。山神様に会わせてあげる」
「ついてきなよ」
鳴人にそう言われ、私は鳴人の後ろを歩く…。
早朝の真夏の緑が、眩しい…。
少しばかりの緊張が、私の口を閉ざさせる…。
おばあちゃんの家からの一本道を、
あのお祭りの夜のように、鳴人と二人下って行く…。
あの時は、お互いに冗談を言い合い、
じゃれあったりしていたのだけれど、
私同様、口を閉ざす鳴人の様子から
私達の間には、目に見えない溝が確実にある事を
再認識させられる…。
『もしかしたら…
鳴人が変わってしまった理由も
山神と話す事で、解る事なのかもしれない…』
私は無言で歩く鳴人の後ろ姿を見ながらそんな事を考えていた。
一本道を下ると、私達は、前回同様、小川の畔に停めてある
鳴人の可愛らしい軽四の車に乗り込む…。
車が走り出すと、沈黙を守る私達と対象的なノリの良いJPOPが流れ出す…。
もうすぐ山神神社に到着する、という頃、
私達を包み込む沈黙を鳴人が破った。