送り狼

「…あの時も、その瞳だった…」


山神はかすかに微笑みを作りながら、

ポツリポツリと話す。


「…真央…

 お前の求める答えは、お前の中にあるのだぞ?」


言ってる意味が解らない。


「…あたしに解るように説明してよ…」


「そうだな…」

ははは、と山神が笑う…。


「…山神…

 あたしは…何者なの…?」


私は怖くて聞けなかった事を口にする…。


「…もしかして…

 銀狼やあなたが言うように、あたしが夏代子本人なの…?」


「………」


口を閉ざした山神の返答が怖い…。

もし、そうだ、と言われたら、真央はどうなってしまうのか?

自分が自分でなくなる事がこんなに恐怖を伴う事だなんて知らなかった。

目を瞑り、山神の返答を待つ…。


「……はははは…真央、それは違う」


笑い混じりに山神が否定した。

その事に心なしかホッとする。


「…お前は鳴人とは違うよ」


ーーー鳴人?

どうしてここで鳴人の話が?


私は、『解らない』と言うように山神を見つめる。


「…ん?

 なんだ、気がつかなかったのか?

 あれは、前世の記憶を残し

 今世に生を受けた者だ。

 お前もあれの前世は知っているはずだぞ?」


「…鳴人がっ!?」


私の驚きように、山神が溜息を漏らす。


「…やれやれ…

 ここへ来たのだから、もう少し記憶が戻っているのかと思ったら…」


「あたし、鳴人と前世で会ってるの!?

 じゃぁ、あたしに記憶があるのは…

 おばあちゃんの生まれ変わり!?」


ーーーんっ!?

何かおかしい。

自分で言ってて、その矛盾に首を傾げる。


山神が前世なんて言うものだから、自分もそうなのかと思ったが…



前世って言う物がよく解らないけれど、多分、同じ魂が亡くなった後、別の物に生を受ける事を言うのだと思う…。

私のおばあちゃんはつい最近まで生きてたのだ…。

それじゃあ、つじつまが合わない!


「えっ!?わかんないっ!

 どういう事っ!?」


混乱する私は、視線で山神に説明を求める。


「…落ち着け。

 お前はあれと違うと言ったろう?

 あれは、輪廻の理に乗って生を受けた。

 …夏代子は…

 自らの願いを叶える為…」


山神は一瞬続きを語るのをためらった。

そして、少し寂しそうな顔をすると、私を見つめ続きを語った。


「…夏代子は…自らの願いを叶える為

 輪廻の輪から外れた…。」

 










 



< 123 / 164 >

この作品をシェア

pagetop