送り狼

「輪廻の…輪…?」


輪廻、または、輪廻転生と言う…。

仏教など東洋思想において顕著だが、世界各地他の様々な宗教でも見られる考えだ。

その言葉の持つ意味も様々だが、共通しているのは

死んであの世に還った魂が、この世に何度も生まれ変わってくる事…。


この世の全ての生命は、輪廻の輪の理によって

同じ数の魂が、生まれては地に還り、また生まれる、

という作業を生命が誕生した時から幾度となく繰り返している…。


増えもしないが、減りもしない魂の法則…。


それはまるで、科学の授業で習った『質量保存の法則』に何処かにていた…。


山神の丁寧な説明のおかげで、『輪廻』の大体の意味は解った。


でも…


『夏代子は自らの願いを叶える為、輪廻の輪から外れた』


山神が口にした、この言葉が意味するのは何なのか?


「……おばあちゃんは…

 …夏代子は結局どうなったの…?」


「…まぁ、そう急ぐな」


結論を急ぐ私に山神がやんわりと静止をかける。


「…真央…

 俺が夏代子と最後に交わした約束とは…

 『受け継がれる血に記憶を宿す』事だ」


「受け継がれる血?」


「…そうだ…。

 お前は夏代子の血縁…。

 夏代子の記憶は、お前の身体に流れるその血に存在している…」


「………」


山神の言葉に頭がついていけない。

ポカンとした間抜けな表情をする私を、山神は嗜めるように言った。


「…どんなに口で説明した所で理解は出来ぬか…

 では…見てみるか…?」


「…え…?」


「あの約束が交わされた夜へ…行ってみるか?」


ーー生唾を呑む…。

山神は、静かな口調で続ける…。

「あの夜に何があったのか、その目で見る勇気があるのならば…力を借そう…」


「どうする?」、と山神…。


『あの夜の出来事』、それが複雑に絡み合ったそれぞれの想いを解き放つ鍵になるのは間違いなかった。


そして…

私はそれを知る為に、ここへ来たのだ。

自分の答えを再確認し、山神を見つめる。


「……あたし…行ってくる…!!」


「ふっ…良い瞳だな…」


緑色の瞳が優しく緩む…。

そして、すぐに雄々しき翠緑の色を称える。


「…では…そこに横になれ…」


山神に言われた通り、横になる。


「瞳を閉じて…」


「………」


その変化はすぐに訪れた…。


山神の指示通り、瞳を閉じると、身体の奥がむずがゆいような感覚を覚える。

その感覚は徐々に増していき、やがて熱を帯びだす。


『…熱いっ!!』


山神の声が聞こえる。


「…お前がこれから見る物は過去だ。すでに過ぎ去った過去…。

 お前が真実を目の当たりにしてどう思おうが

 それが過去である以上変える事は出来ない。

 その事を忘れるな…」


何?何て言ったの?


身体が熱くて、苦しくて、山神の言葉が頭に入って来ない…。



『血が…たぎるっ!!』
















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