送り狼

山神の意志に反して、力が暴走し始める…。


その事実に、夏代子の想いをまざまざと感じ…


山神は切な気な表情を夏代子に投げかける…。


「…夏代子…。どうして、俺を止める…?」


「………」


夏代子は強い瞳のまま、すぐには山神の質問には答えない…。


「…夏代子っ!!」


山神の切ない叫びに…夏代子の表情がくしゃくしゃに崩れる…。


「…私は…

 こうなるのが、何処かで解っていて…

 解っていたはずなのにっ!!

 あの人には何も伝えなかった…。

 私はズルイ女…。

 それでもっ!!

 私の勝手な想いで、あの人を死なせてしまうわけにはいかないのよっ!!」


強い瞳に涙が滲む…。


痛い程の夏代子の想いに、山神は瞳を伏せる他なかった…。


「…しかし…、あやつは、お前の為、自分の命の限り、俺に向かってくるだろうよ…」


「…それでもっ!!」


夏代子が叫ぶっ!!


「私はあの人を死なせるわけにはいかないっ!!絶対にっ!!」


強い意志の秘められた瞳だ…。

山神は…


儚げな笑を浮かべ、夏代子に問いかける。


「…やはり…

 人柱として、俺と一つになるのは…

 嫌か…?」


「ちがうっ!!」


夏代子は山神の言葉を激しく否定する。


「…そうじゃないっ!そうじゃなくて…」


夏代子はそう言いかけて…

続きを語ろうとしない…。


そんな夏代子に、山神は優しい瞳を向ける…。


「…俺は…お前を、愛しているんだろうな…。

 俺の中に湧き上がる、今までにない、例えようのないこの気持ちを

 お前達、人は、『愛』 と呼んでいるのだろう…?」


山神のその言葉に、一瞬驚いた表情を見せた夏代子だったが…

山神に、夏代子のその胸の内が伝わるように、

夏代子にもまた、山神の抱く、夏代子への想いが流れ込むのだった…。


夏代子は、それに答えるように、山神に優しい微笑みを返した…。


山神もそれにつられ、微笑む…。




暫くお互いに微笑みあった後、山神から切り出した。




「…さてと…

 お前が、俺の意志に反する限り、俺はお前を喰らう事は叶わん。

 無理に喰らおうとすれば、力が暴発し、全てが無に帰るからな…。

 夏代子…。

 お前は、どうしたい?」











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