送り狼
山神から白い輝きが放たれる…。
その輝きは徐々に増して行き、ついには、目を開けていられない程の
強い輝きへと変わった…。
余りの輝きの強さに、夏代子は目の前にいるはずの山神の姿すら、その瞳に映す事は出来ない…。
「…夏代子…俺は…お前を愛していた…」
そう言って、山神は夏代子を抱きしめる…。
「…私の我が儘をきいてくれて…
ありがとう…」
穏やかな声で、そう告げる夏代子に、山神の胸は激しく揺さぶられる…。
もう…
この言葉を告げたら…
山神も、銀狼も…
二度と夏代子本人に会う事は叶わないのだ…
山神の翠緑の瞳が揺れる…
「…そんな顔しないで…
私は、今ここで死ぬ訳じゃないのよ?
私は…生きるのよ…」
そう微笑む夏代子に…
山神はやっとの想いで、別れの言葉を告げる…。
「…さようなら…夏代子…」
夏代子が最後に見たのは…
揺れる山神の翠緑の瞳だった…。
激しい白い輝きが、全てを書き換えるように、
辺りを飲み込んだ……。