送り狼

山神から白い輝きが放たれる…。


その輝きは徐々に増して行き、ついには、目を開けていられない程の

強い輝きへと変わった…。


余りの輝きの強さに、夏代子は目の前にいるはずの山神の姿すら、その瞳に映す事は出来ない…。


「…夏代子…俺は…お前を愛していた…」


そう言って、山神は夏代子を抱きしめる…。


「…私の我が儘をきいてくれて…

 ありがとう…」



穏やかな声で、そう告げる夏代子に、山神の胸は激しく揺さぶられる…。


もう…


この言葉を告げたら…


山神も、銀狼も…


二度と夏代子本人に会う事は叶わないのだ…


山神の翠緑の瞳が揺れる…


「…そんな顔しないで…

 私は、今ここで死ぬ訳じゃないのよ?

 私は…生きるのよ…」


そう微笑む夏代子に…

山神はやっとの想いで、別れの言葉を告げる…。


「…さようなら…夏代子…」


夏代子が最後に見たのは…


揺れる山神の翠緑の瞳だった…。



激しい白い輝きが、全てを書き換えるように、

辺りを飲み込んだ……。





< 144 / 164 >

この作品をシェア

pagetop