送り狼

白い世界は、そこまでの一部始終を見ていた真央をも飲み込んだ…。


そこから、夏代子がどのように生きて来たのか…


ビデオテープを早送りで見ていくような感覚で


真央の頭に叩き込まれる。


記憶を失い、目を覚ました夏代子は何事も無かったように

毎日の生活を送る…。

ただ一つ違う事は…

その世界に銀狼も山神も居ない…。

まるで、その事自体が最初から無かった事のように…。


やがて、夏代子は村一番の好青年に望まれ、真央の母が生まれる…。


幸せそうに微笑む夏代子…。


子を育て、夫婦仲睦まじく、生きていくその姿は

何が正しかったのか解らなくする程の衝撃を受けた…。


そして…


真央が生まれ…


夏代子の生は…

 
閉じる時を迎えた…。


全ての事柄が頭の中で繋がる…。


『おばあちゃん、おばあちゃんっ!!』


真央の瞳から、大粒の涙が幾筋もこぼれ落ちる…。


言葉が出ないのだっ!!


それが、とても苦しいっ!


この事が、良かった事なのか…


それとも、悪い夢の中の出来事なのか…


それすらも、真央には、判断がつけれない…。


その場に泣き伏せてしまう真央の頭を、

何者かが、優しく撫でる…。


「…真央…、あなたが泣く必要はないのよ…」


優しい声が頭上から降って来る。

驚いた表情で顔を上げた真央の瞳に映っていたのは…

若かりし日の夏代子の姿…


「…おばあちゃんっ!!」


真央はそう叫ぶと、涙を流し夏代子に抱きついた。


「…あらあら…、困った子ねぇ…」

 こんなにあなたを悲しませちゃって、私は悪いおばあちゃんね」


そう言って、苦笑いを浮かべる夏代子。


「…うぇっ…うっ…ひっく…!」


それでもシャクリを上げ、泣く真央に、夏代子は優しく頭を撫でながら続けた。


「真央…、あなたの目に、私の人生はどう、映ったかしら?

 悲惨な人生に見えた?」


その言葉に、真央は顔を上げ、夏代子を見つめる。

夏代子は暖かい眼差しを真央に向け、優しく微笑んでいる。


「……う、ううんっ!!」


真央は、大粒の涙をこぼしながらも、それを否定するように、懸命に頭を振った。


「…で、でもっ!!でもっ!!解んないよぅっ!!」


再び、声を上げ泣き出す真央に、夏代子は優しく語りかけた。












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