送り狼
真実と葛藤
『あ…れ…??雨が降りそう…?』
さっきまで晴れ渡っていた空が、急に陰りを見せはじめていた。
やがて訪れるであろう嵐を予感して、私は歩みを早める。
山神の力を借りて、事の真相を知った私は、
「誰ぞに家まで送らせよう」
という山神の申し出を断り、おばあちゃんの家までの道のりを一人歩いていた。
山神神社からおばあちゃんの家まで、歩けばかなりの距離なのだが、
どうしても一人ゆっくり考える時間が欲しかったのだ。
私は…、真実を銀狼に伝えねばならなかった。
夏代子と一体になり、感じたあの気持ちに、嘘偽りなどない。
しかし…
元々短気な上に、あの出来事により、少し…、いや、随分と捻じ曲がってしまった銀狼に、何と言えば伝わるのか……
想像すればする程……
修羅場しか思い浮かばなかった…。
おばあちゃんの為とはいえ、銀狼の為とはいえ……
何て嫌な役回りだ。
家までの道のりも、もう残り半分もない。
考えても、考えても良い案など浮かぶ筈もなく、漏れ出るのは溜息ばかり…。
「…はぁ…。おばあちゃんに、何て言えばいいのか聞いとけば良かった…」
そうは言っても、必ず伝えると約束してしまったものを、逃げ出す訳にもいかない。
どう言えば夏代子の切ない程に深いあの愛情を銀狼に伝える事が出来るのか?
そして銀狼は、他人には理解し難いあの真実を受け入れる事が出来るのか?
「銀狼ならきっと信じてくれるわよ!」
と、明るく微笑んだ夏代子…。
果たしてそうなのかっ…!?
考えれば、考える程、私には悪い予感しかしない…。
「……はぁぁっ……」
再び深い溜息を吐きだした時、とうとう暗い空からポツリ、ポツリと雨が降り出した。
「っげっ!!とうとう降り出したよっ!」
あっという間に雨足は強まり、
「ザーーーーーっ!!」
という音を立て始める。
こりゃ、暫く降るな…、そう思った私は何処か雨宿りが出来る所はないかと辺りを見回してみる。
この場所は、山神神社周辺に広がる集落を抜け、暫く進んだ所で、周辺にはもちろん民家など一軒もない。
あるのは、道幅の狭いガタついた道路とその両脇を固めるように広がる雑木林。
雨宿りを諦めかけた時、ふと思い出した。
確か…、もう少し進んだ所に、最後のバス停があった筈!
小さなバス停だが、3人ぐらいが座れるスペースと屋根がある!
『とにかく、そこまで走ろうっ!!』
激しい雨が打ち付ける中、とにかく私は走り出した。