送り狼

『人間って不憫だなぁー』

まるで人事のように思ってみる。

だって、一つ壁を乗り越えたら、また新たな壁にぶつかる…。

『もぅ、こんなんじゃぁ、人生事故りっぱなしだよ…』

幾度と、枯れる事なく吐き出される溜息に、気分はブルーを通り越して群青色だ…。

……群青色の気持ちって一体何だよ…?

…って、あぁ…、こんな気持ちか…。

一人でボケ漫才を繰り広げた所で、気分は上がらない。

私は、膝に顔を埋めたまま呟く…。


「……銀狼、今頃、どうしてんのかな……?」


「お前こそ、こんな所で何をしている?」


「あぁ…私の事なんてどうでも……」


………っ!!??


「どうでもいいと?俺をこんなに心配させておいて?」


「っっっっ!!!??」


冷や汗がどっと吹き出る。

まさか…、まさかと思うが…

身体が硬直してしまい、顔を上げる事が出来ない。


「どうした?今、俺を呼んでいただろう?

 何故顔を上げない?」


吹き出した冷や汗がダラダラと滴り落ちてきそうだ。

どうして?

何でこのタイミングっ!?

この嵐は神様のプレゼントではなく、罠だったのかっ!?

よりによって、この男が今ここに現れるなんて…。

最悪だ……。


「真央っ!!!」


硬直してしまい、動けずにいる私に、短気なこの男は早くも怒声を浴びせた。

観念した私は、精一杯の作り笑いを浮かべ、顔を上げる。

「…あ、ははは…。銀狼、どうしたの?こんな所で」

昨夜ぶりに見る銀狼の顔は……


案の定、切れ長の瞳をさらに吊り上げ、怒りの感情を表わにしていた…。

さすがにこの不運ぶりには、言葉も出ない…。


「…こんな所で?だと…?

 それはこっちのセリフだっ!!

 お前こそ、今まで何をしていたっ!?」

銀狼の余りの剣幕に心で『ひぃっ!!』と叫ぶ。

まだ、パターン1も出来てない中で、この状況はあんまりだ。

銀狼が怒鳴れば怒鳴る程、焦りから頭が真っ白になって、不気味な作り笑いを作る顔の筋肉がピクピクと痙攣する。

「……さ…散歩…?えへ…」

咄嗟に口から飛び出した言い訳は、

…私から見ても、実に酷い内容だった。





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