送り狼
今までに見たことの無い程、冷たい瞳をしていた…。
一番最初に銀狼と出会った時も、冷たい瞳をしていたが…
それとは、比べ物にならない程、冷たい色。
なんで…?
なんで急に?
どうして…?
「くっ、くっ、くっ…、
姿の見えないお前を心配して探し回ってみたら…
何だ?この有様は…」
薄暗いバス停は、静かに呟く銀狼の表情を再び隠した。
それらが見えない恐怖と、刺さる視線、氷つく響きに、恐怖すら感じる。
さっきまでの雰囲気とはまるで違う…。
銀狼の怒りに周囲の空気が震えているようだった。
『…まさか…銀狼に勘付かれた…?』
一番あってはならない事だった…。
それなのに……
その恐怖に直面してた私の唇は、無意識にガタガタと震えだす。
「…答えぬというなら…
俺が答えてやろう…?」
「………」
彼の口端が残忍に吊り上がったかと思うと、
長く鋭い爪の生え揃った手が私へと不気味に伸びてくる…。
銀狼が……怖い…!!!
本物の恐怖に直面した生物の、防衛本能か?
私は伸びてくる銀狼の鋭い爪を咄嗟に避け、吹き荒れる嵐の中へ駆け出した!
雨は強風に煽られ威力を増し、槍のように私の肌に突き刺さった!
しかし、そんな事は全く気にならない。
心臓はドクドクと脈打ち、何も考えられず、従うのは本能のみ。
『あの瞳は…あの瞳は、危険だっ!!』
恐怖から、両足がガクガクと奮える。
絡まりそうな両足を必死に動かす!
「…俺から逃げられると思うなっ!!」
背後からそう叫ぶ銀狼の声がした。
確かに背後からしたのにっ…
その直後…
「ドンっ!!!」
一瞬で、私の目前に姿を現した銀狼に激しくぶつかり、動きを封じられた!
そして、再び逃げ出せないよう、両腕で私を締め上げる。
「い…痛いよっ!銀狼っ!」
加減を知らないその強さに悲鳴を上げる。
「…何故だっ!!」
銀狼が叫ぶ!!
「…何故お前から、奴の…
山神の匂いがするっ!?
答えろっ!!真央っ!!」
小動物が、肉食動物に捉えられるような…
そんな恐怖だった。
小動物へと成り下がった私は、捉えられた恐怖からパニックをおこし、その腕から逃れようと必死にもがくだけだった。
「…っやだっ!!…っっ!!離してっ!!いやぁぁっ!!」