送り狼

銀狼は私にそう言い放つと、踵を返し紅い夕焼けの空へ飛び立とうとしていた。

風が彼を攫ってしまおうと、銀狼に集まって行く。

彼が……

銀狼が、行ってしまう!!

このまま行かせてしまうと…


二度と会えない気がする…。




「好きなのっ!!」



ボロボロの顔で無意識にそう叫んでいた。

ずっと言えずにいた言葉…。

一度口にすると、堰を切ったように次々と飛び出してくる。


「銀狼の事を好きになってしまったから!!
 
 …だから逃げずに向き合ったの!!

 …私は……銀狼が好きっ!!」


どうしても…

どうしても、行かせたくなかった。

私の全てを賭けて、彼に追いすがる…


『お願い!お願い!!振り返って!!』


風に包まれる銀狼の後ろ姿を必死な顔つきで凝視する。

垂れてくる液体が、涙なのか、鼻水なのかも解らない。


『銀狼っ!!私を見て!!』


銀狼を包む風がとうとう彼の姿を覆い隠した。


『銀狼っ!!』


もう、ダメかと思った。


…その時……




「………」



…深い金色の瞳は、ほんの一瞬、確かに私の姿を捉えたんだ…。


「ザアアアアア………」


風が音を立てて舞い上がる。



「……銀狼ーーーっ!!」


叫び声にも似た私の声が彼の後ろ姿を追いかける。


朱墨色の紅い空は、容赦なく彼の姿を飲み込んで行った。







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