送り狼
思ってもない人物の無礼な訪問に、私は呆けていた。
というか、呆けるしか無かったのだ。
それは……落胆………。
「…な…るひと?」
呆けた顔のまま、無礼な侵入者の名を口にした。
それを受けたまん丸な冷たい瞳は、その冷たさをより一層引き立てようと眉をひそめて見せた。
「何やってんの?真央ちゃん」
「…何やってんのって……」
私はそこで言葉を詰まらせる。
鳴人はそんな私を一応は不思議に思ったのか、さらに眉を吊り上げて私をのぞき込むような姿勢をとった。
その瞬間…
「…わっ!!」
鳴人が悲鳴をあげる。
「……何やってんのって、こっちのセリフよ~~っ!!!」
私はそう言いながら鳴人の襟元を掴み、前後にブンブン振り回した。
「わっ…!!ちょっと辞めてよっ!!汚いっ!!」
鳴人を振り回す私の顔は、鳴人の言う通りだったと思う。
侵入者が銀狼でなくて安心したのか、それとも悲しいのか、もしくは、いろんな緊張から解放されたからなのか、よく解らない涙でぐちゃぐちゃになり、垂れた鼻水が私の動きに合わせてブランブラン揺れていた。