送り狼
銀の髪がゆらゆらと華麗に宙を舞っている…
絹糸のような髪の間から、獣の…嫌、狼のような耳がピクリと動いた。
触ると気持ちよさそうな、毛並みの良い大きな尻尾が私の目の前で左右に揺れている。
彼を印象付ける、切れ長の綺麗な瞳は先程とは違い、金色に怪しく光っていた。
口元を吊り上げて彼が笑った。
「お前は、この姿も忘れてしまったのか?」
…忘れるも何も……。
そんな変な生き物を見るのは、生まれて初めてです……。
あぁ、ヤバイ…
頭が混乱してきた。
取り敢えず!
取り敢えず一度頭を整理してみよう!!
私は今にも思考停止してしまいそうな脳をフル回転させる。
えぇーっと……
光の玉に導かれてやって来た先には……、神様が居て。
しかも、その神様は、超絶美形な上に、
私が子供の頃大好きだったヒーロー『犬神様』だと言う。
しかも、この神様、子供の頃の夢を打ち砕くかのような横暴ぶりで
ヒーローとは程遠いような奴で…
おまけに、私を誰かと勘違いしていて、勝手に話しを進めて行く…。
…………。
普通に、どうかしてるとしか思えない!!
とにかくキチンと誤解を説いておかないと、とんでない事に巻き込まれてしまいそうな気がする。
私は自分を落ち着かせる為に、大きく一度深呼吸をした。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、彼はニヤニヤと強気な笑みを私に向けている。
「…あ、あの、犬神様。」
私の遠慮がちな呼びかけに、彼は目を一瞬吊り上げ、ピシャリと言い放った。
「銀狼だっ!」
「………。」
その叱責に、言葉を失いそうになったが、気を取り直して続けた。
「…じゃあ、銀狼。
あなた、まだ誤解してるようだから、もう一度言わせて貰うけど…」
銀狼は、口を『へ』の字に曲げて、黙ってこちらを見つめている。
「さっきから、 何度も言ってるんだけど
あたしは今まで普通に生きて来た女子高生でね。
記憶を失くした事なんて今まで一度もなければ、あなたの婚約者になった覚えもない。
まして、夏代子なんて名前でもない。解る?」
その言葉を聞いて、銀狼が再び重い空気をまといだした。
なんて、自分勝手な……。
私は、その重苦しい空気を破るように、明るく続けた。
「…ほ、ほら、世の中似た人が世界に3人いるっていうじゃない?
きっと、あたしが、その内の一人なのかも!?
そんなに『夏代子』さんって人に。似てるのかなあ~」
あははは、とわざと明るく笑って見せる。
けれど、銀狼の目は全然笑ってない。
それ所か、ジッと私を睨んでくる。