送り狼


銀狼はニコニコと笑っている。


私はというと、さっきまでの熱がいっきに冷めて、ジロリと銀狼を睨みながら言い放った。



「はあ??何それ。」


冷たく言い放った言葉も、彼には届いていないようで、

変わらずニコニコと満面の笑みを私に向けてくる。


「だから、お前は俺と夫婦になればいい。俺は強いぞ。俺なら、お前を守ってやれる。」


聞こえなかったのなら、もう一度言ってやろうか、と言わんがばかりに銀狼は同じ言葉を繰り返した。

だが、残念ながら、私の耳にはしっかり届いていた。

どうやら聞き間違いではないらしい。



ーーこの、野良狼は何を言い出すかと思えば…。


私は頭を抱えながら続けた。


「……お断りします。あなたには夏代子さんって婚約者がいるんでしょう?夏代子さんが聞いて呆れるわよ。」


「大丈夫だっ!」


銀狼は笑顔を崩さず、すかさず答える。


「俺の勘では、お前は夏代子だ!間違いないっ!」


…勘って。



「……………だから違うって言ってるのに…何を根拠に……。」


私は呆れて小さな声で呟いた。

銀狼はその呟きを聞き逃さなかったようだ。


「では、違うという証拠は??」


「は??証拠も何も……」


銀狼は私が言い終わる前に勝手に話しを続けた。


「そんなもの、無いのだろう??」


銀狼のニコニコとした少年のような微笑みが、口端を吊り上げた嫌味な笑いにすり替わっていく。



「…そんなもの、無いのだろう??あるなら今すぐ出してみろ」


「……!!」


銀狼は、フンっと鼻をならし、勝ち誇ったような顔つきで私を見下ろした。



ーー何て強引な奴っ!!最初から、私の話なんて聞いちゃいないって事ねっ!!



ここで、私が否定したとしても、証拠らしい証拠を持ち合わせていない私の話しに、彼は納得しないだろう。

これでは、話しがどうどう巡りだ……。



「……別に守って貰わなくてもいいわよ。

 あんたの話しだって、よくよく考えてみたら本当かどうかなんて解らないんだし。

 頭が痛くなってきたから、私、帰るっ!」



このどうどう巡りな話しに面倒臭さを感じ始めた私は、

そう言い放って元きた道を辿ろうと振り返った。





……が……、




「……………。」




言葉を失う私を見て、銀狼がクスクスと笑っている。






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