送り狼
犬神様の社は、石畳の階段を数段登った、その先にある。
不揃いな石畳には青々とした苔が生えていて、その隙間からは雑草が生い茂っている。
久しぶりに訪れた犬神様の社は、あの頃に比べると荒れた印象だ。
階段を登り切ると、大きな木々に囲まれた犬神様の社へと辿り着く。
『そう言えば、毎朝おばあちゃんと犬神様にお祈りしに来ていたっけ』
今思えばおばあちゃんは、本当に犬神様を大切にしていたように思う。
社の手入れも進んでよくやっていた。
もしかするとおばあちゃんが亡くなって、手入れをする人がいなくなったのかもしれない。
おばあちゃんのお話に出てくる犬神様は、
小さな私にとって、皆を守ってくれるヒーローのような存在だった。
今のこの荒れた社を見ると、そんな犬神様が少し不憫に思えてくる…。
「…ちょっと待っててね!」
私は社に向かってそう一声かけると、先程通ってきた小川の方へ駆けていく。
川べりには、小さな白い花が咲いていて、私はその中から綺麗な物を数本選んだ。
そして、その可愛らしい花を、
カバンの中から取り出したミネラルウォーターのペットボトルに挿した。
それを犬神様の社へと、そっとお供えする。
「こんな物で申し訳ないけど…」
両手を合わせて瞳を閉じる。
「犬神様、おばあちゃん居なくなって寂しい??」
「・・・・・・・・・」
「また、お参りにくるね」
「・・・・・」
そんな事を心でつぶやいて、私は犬神様の社を後にした。