送り狼



ーーーー『約束』ーーーーー。




私は銀狼の言葉を想い出した……。




『……あの…約束の日、お前は何故来なかったのだ??』




昨日、銀狼と別れる時、彼が私に投げかけた言葉だ。



その約束って、もしかすると、………



………この事なのかもしれない……。




だとすれば、今、目の前で繰り広げられている、この切ない恋物語はーーーー






ーーーーー成就される事は無かったんだ………。






私に流れ込んで来た『夏代子』の気持ちは、

複雑な気持ちに覆われはしていたが、間違いなく銀狼を愛していた。





………それなのに………。




ーーーーー『約束』は果たされる事は無かったーーーーー






その理由は、一部を垣間見ただけの私には解らない。






……だからか……



銀狼が私と初めて会った時、激しい感情をぶつけてきたのは………。




切ない気持ちが私を襲う。



その感情は、『夏代子』ではなく、私のものだ。




あんなに確かめ合った『約束』は違えられ、




満月の夜、彼女を想いながら、一人過ごした銀狼はどんな想いだったのか??




銀狼は、『夏代子』を信じていたはずだ…。



いつまで待っても現れなかった彼女を……



昨日、私と出会った夜まで、どのように想っていたのだろう……。





ーーーああ……、なんとなく、この謎が少しだけ解った気がする……。




そう思った時……。




ーーーーーキーーーーーーーーーーンーーーーーーーー





また、あの金切り音だ……。




「……っ!!」



私は、再び激しい頭痛に襲われた。



倒れかかる私の身体を銀狼が支える。



「『夏代子』?」


今の今まで、感情しかそこにはなかったのに、

初めて私の意思に従って身体が、悲鳴をあげている。


「どうしたっ!?」

「…あっ、頭が痛いっ!」


急に苦しみ出した私の姿に、銀狼はうろたえている。



ーーーーキーーーーーーーーーーンーーーーーーーーーーっっ!!



激しい頭痛と金切り音で、意識が徐々に遠のいていく………。


遠くで、銀狼の『夏代子』を呼ぶ声がした………。



ーーーああ、やっと、『何か』を掴めそうだったのに、ここまで…か…………。




私の視界は徐々に暗くなっていき……



とうとう、何も見えなくなった………。


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