送り狼
その声の余りに恐ろしい響きに
私はそれが銀狼でない事をすぐに悟った。
黒い塊は、激しくグルグル渦巻きながら、大小の動きを繰り返し、一気に大きく広る!
「……嬉や……。これは、我の獲物だっ!!」
不気味な物体はそう叫ぶと、悲鳴を上げる暇もない私を、瞬く間に飲み込んだ!
…………………………
…………………………
…………………………
気付くと、すでにそこは、犬神の社ではないようだった。
薄暗い世界で、土は死に、木々は枯れていた。
地の腐った嫌な匂いが鼻をつく…。
その世界の纏う空気の重苦しさに、息もしにくいぐらいだ。
黒い塊に飲み込まれる感覚は、内臓を掻き回されるような気持ち悪さを感じた。
その後遺症からか、身体が全く言う事を効かない。
それをいいことに、動かない私の身体は、
何者かにズルズルと地面の上を引き摺られているようだった。
「………嬉や……嬉や…………。まさか人柱が手に入るとは」
その姿を視界に入れた時、思わず息を呑んだ。
「………っっ!!」
私の息遣いに気付いたのか、
声の主は、その動きを止め、ゆっくりとした動きでこちらを振り返った。
「……おや……??まだ意識があるとは……。やはり、人柱は普通の人間ではないんだねぇ」
その異様な姿に私は、叫び声の一つも上げれない!
不気味な生き物はニヤリと口元に笑みを浮かべた。
「私の姿……醜いだろう?
…これも全てお前ら人間共のせいさ……。
ただ……私は運がいい……」
その、人とは呼べない化物は、乱れた髪の奥を妖しく紅く光らせた。
「人柱のお前を食らえば、私は、かつての力を得る事ができる…。
そして、私をこのようにした主ら人間共を呪い、永遠に祟り続けてやろう!」
「……ひっ……!!」
地の底から這い出てくるような呪いの言葉に身震いし、私の口から短い悲鳴が漏れ出た。