送り狼

おしよせる快楽で、意識が飛んでしまいそうな私に

銀狼はまた、あの妖し気な笑を浮かべ語りかけてくる。


「……気持ちいいのだろう…?

その証拠に、お前の身体から甘い香りが、だだ漏れだ…」


銀狼はそう言って、自分の額を私の額に重ね合わせた。


長い睫に縁どられた金色の瞳が、視界を埋める。


私は身体の奥から湧き上がる、痺れるような甘い感覚に、


なす術もなくボンヤリとその瞳を見返していた。


「覚えておけ…。

その感覚は、契約の証だ…。

これからお前は、俺に力を与える度、そのようになる。

『人柱』に拒まれぬよう、うまく出来ていると思わないか??」



--銀狼が何か言ってる…。


頭がまわらない…。



「…そして…」


銀狼のひんやりとした指が、喉元に触れた。


私の胸元のボタンを器用に一つずつ外していく…。


やがて、あらわになった私の小ぶりな胸に口づけた…。


その瞬間、


「ジュッ!」


という、嫌な音と、焼け付くやうな痛みが口づけた部分を襲った。



「…これが、お前が俺の物である証だ」



涙目を開き、痛む左胸に視線を移してみると、


焼印のような『しるし』が浮かび上がっていた。


それは、無数の絵のような文字が螺旋状に渦巻いて、円型になっていた。




私には、それが『夫婦の契約』の証ではなく

まるで呪いの『しるし』のように思えた…。



この、不思議な運命から逃れない、呪いの印…。


自然と瞳に涙が滲んでくる…。



「勝手にあたしに触らないで…」




心と身体がバラバラに引き裂かれるような感覚の中で、せめてもの抵抗をしてみせるが


銀狼はそれを鼻で笑う。


それが悔しくて、動かない身体を無理に引きづり、銀狼から身を離す。

そんな私を嘲笑うかのように銀狼は冷たい瞳を私に向ける…。


「契約は完了された。抵抗すれば、その分苦しむぞ?」


金色の瞳が妖しく光る…。




ーーやっぱり、嫌な男だ…。


私はいけ好かないこの男を、睨む事しか出来ない…。


己の無力さに反吐が出そうだ。


冷たい金色の瞳から目を反らしたくなる…。


それでも…


私は自らの瞳に、力を込める…



「…一つはっきりさせておきたい事があるの…」



「何だ…?」




「銀狼は、あたしの敵なの…?味方なの…?」


銀狼は私の問いかけに一瞬瞳を丸くしたが、

すぐに嘲笑の笑を浮かべ、それを鼻で笑い飛ばした。


「…なんだ…。そんな事か…。

お前は俺の大切な『婚約者』だよ…。なぁ、『夏代子』」







ーーーー銀狼のこの言葉で大切な事を思い出したーーー。






命の危機に合って、その事をすっかり忘れてしまっていた事に気づく…。



今夜私がここに来たのは、銀狼と『夫婦の契約』をしに来たのではない…。




私の『確証』を伝え、解放して貰うという事だった……。








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