送り狼


「…………」




どうしよう…。


とんだハプニングのお蔭で、予定は当初から随分とそれてしまっている事に今更ながら気付く。


ここで、私の掴んだ『確証』を彼に伝えると、一体どうなるのだろう…。


私が『人柱』である以上、これからもこういう類の者に襲われる事は度々あるだろう…。


……彼は私が『夏代子』でない『確証』を伝えても私を守ってくれるのだろうか…??



「…………」



急に黙り込んだ私の様子に気づいたのか銀狼が


「どうした?」


と私を覗き込む。


それに驚いて私は体を大きく揺らす。




「………………何でもない…」




それが、私の口から咄嗟に出た言葉だった。



例え銀狼がいけ好かない男でも、彼は強い…。

それは、先程の体験で証明されている。


それに…


今までの彼の発言を思えば、

彼は私の敵ではないように思えた…。


私が、『夏代子』か否か…



『今はまだ曖昧にしておこう』


そう思った…。


その方が都合が良さそうだったから…。


幸いな事に銀狼は、私が何を言っても、私を『夏代子』と信じて疑わない。


しかし、この事がそう遠くない未来

心底後悔する事になるなんて、

この時の私には、知る由も無かった…。





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