送り狼
私は銀狼に抱きかかえられ、祟り神に連れ去られた異空間から犬神の社へと帰ってきていた。
犬神は境内に私を降ろすと、これからの事について話てきた。
「『夫婦の契約』も無事完了した事だし、どうだ?一緒にここに住むか?」
バカバカしい質問に、横目で睨みながらピシャリと打つ。
「やだよ。『夫婦の契約』なんて、ビックリさせておいて、
結局、力の貯蔵庫と権利者の関係でしょ??
あんまりなれなれしくしないでよね」
強気で言い放つ私に、銀狼は瞳を細め不服そうに言う。
「夏代子…お前は、本当に何もかも忘れたのだなぁ。
お前と俺は、昔もこうして『夫婦の契約』を交わしあい、
永遠の誓いをも交わした仲だったではないか。
今更何を迷う必要がある??」
………また、『夏代子』の話だ。
銀狼の言う『夏代子』が、
私ではなくおばあちゃんだという事実を
今は伝えないとしても、毎回これではいい加減うんざりする…。
何よりも、おばあちゃんではない私に、
おばあちゃんを重ねられる事が、堪らなく嫌だった。
私は私なのに………。
私は銀狼の端正な顔を見上げた。
「ねぇ、銀狼……」
「なんだ?」
彼は、何気無い瞳を私に向ける。
「あたしは『夏代子』じゃないよ」
「………」
私の静かな口調に、?(ハテナ)顔で答える銀狼。
「あたしの名前は『真央』だから…。
これからは、あたしの事は真央って呼んでね??」
そう言ってニッコリ微笑んだ。
銀狼は少し驚いたような表情を浮かべたが、
すぐにその美しい顔に優しい笑顔を作り、
「お前が望むならそうしよう」
と、笑った。
『ほらね…。何言われても疑わない…』
切れ長の瞳を優しく細める銀狼を、私は呆れ顔で眺めた。
その時、無意識に私から短いため息が漏れる…。
「…??」
何故だか解らないけれど、
私は心のどこかで、その事を寂しく感じていた。