送り狼
友神
ここは田舎の集落にある、山神の社。
その一番奥にある御神体の間に鎮座しているのは、
この集落で昔から信仰されて来た、『山神様』だ。
犬神、銀狼に謀られて力を一時的に失い、ここに眠りについたのは、もう60年も前の話だ。
今度、この社で行われる大々的な神事で、彼は完全復活をとげる。
永遠に続くかと思われるような闇の中で、
銀狼がつい最近目覚めたという事は彼も知る所であった。
彼は、苦々しい思いを過去に巡らす…。
犬神は元々、自分が使役している神の一人に過ぎなかった。
しかし、この銀狼は歴代の犬神に比べ、
神通力も強く、その力は自分に匹敵する程で、
周りの使役する神々に比べると群を抜き出ていた。
それに何より、
気性も荒く我が儘な性格が、彼とよく似ており
そんな所を気に入ってか、神使というよりは、
友神として行動を共にする事が多くなっていった。
いつしか、他の神々からも、山神と犬神は一括りにして見られる事が多くなった。
それ程、この二人の神の友好は厚かったのだ。
我が儘で気の荒い暴れ馬のような、この神々はよく他の神とも衝突した。
しかし、他の神々と折り合いが悪くなっても二人力を合わせれば、何も怖くなかった。
それ程に、この二人の神は全盛期を迎えていたのだ。
そして…
そんな二人の厚い友好も、60年前のあの日……
……跡形もなく崩壊した…。
この村の人々は、数百年に一度、『人柱』を彼に捧げる。
彼は、『人柱』を喰う事で、長い間力を保ち、この広大な土地を治めて来たのだ。
その時も、習わし通り、『人柱』が現れ、
それを喰う時期がきていた、
という、ごく当たり前に
繰り返されてきた事にすぎなかった。
ある日、人々が『人柱』が決まった、と騒いでいた。
数百年ぶりの『人柱』の出現を耳にした彼は
暇つぶしに、一つそれをからかいに行ってやろうと、犬神を誘いだしたのだ。
風に乗って二人の神は舞い上がり、今回の『人柱』見物へと集落に足を伸ばした。
「なぁ、銀狼よ。どうせなら美しい娘が良いとは思わんか?」
彼は、親しげに銀狼の肩に腕を廻しながら、何処か残酷な笑みを浮べていた。
銀狼も、そんな彼に同調するかのような笑みを浮かべ、彼を見返した。
「そうだな…。どうせなら、お前が食うのを躊躇するような美女だと面白い話になるのだがな」
それは面白い、と彼は喉の奥でクククッと笑った。
「どれ 、その姿を一つ拝んでみるとするか」
二人の残忍な神は、『人柱』が、何処の娘なのか確認する為、
神通力を使い、人々の話を盗み聞いていると、
早速、農夫達が噂話しをしている所に、でくわした。