送り狼

聞き覚えのある声だった。


私の顔がみるみる青ざめていく。


「もぅ!真央ちゃん、いるんでしょっ!?

 居留守なんて僕には通じないよっ!!」



図々しくドカドカと上がり込んで来る音がする。


これだから、田舎の家は嫌いだ…。

戸締りもへったくれもあったもんじゃない。



「おはようっ!真央ちゃんっ!!爽やかな朝だよっ!」


「バンっ!!」


掛け声と共に勢いよく襖が開かれた。

目の前に立つ人物に予感しながらも我が目を疑う。


「鳴人っ!?」


鳴人の茶色い癖っ毛が朝日を受けて爽やかにキラキラと輝いている。


「昨夜は、どーもっ!真央ちゃん!」

おどけてペロッと舌を出して見せる。


「あ…あんたっ!どの面下げてここに来たのよっ!」

「えぇーっ?どの面って…この面?」


人差し指を立てて、ウィンクして見せる鳴人。

その辺のアイドルにも負けない愛くるしさは

今の最悪な気分の私にとって、キラキラしすぎて目に毒だ。


「そうじゃなくてっ!!」


鳴人の無神経を通り過ぎた、意味不明なこの行動に物申そうと、

ガバっ!と勢い良く身体を起こした。


「昨日の今日でどの面下げてここに来たのかって聞いてるのよっ!!

 一体どういうつもりっ!?」


鳴人の動きが止まる。


彼の茶色のビー玉のような瞳が大きく開く。


「……真央ちゃん……」


小さな声で呟いた鳴人に追い打ちのように怒声を浴びせた。


「何よっ!?」


「……ご立腹なのは解らなくもないけど……

 ……いいの……??」


「何がよっ!?ふざけないでっ!!」


「いや……ふざけてなんてないんだけど……」


鳴人がビー玉の瞳をさらにまん丸にしながら私を指差す。


意味深な素振りなんてしちゃって!!

一体何なのよっ!?ふざけないでっ!!



鳴人の指差す方を目線で追いかけた……




「……ひっ!!!」



全身の毛が逆立つ。



寝床から勢い良く身体を起こした私の姿は

昨日の浴衣姿のままなのだが……


着崩れて、

おまけに寝崩れて……


乱れに、乱れまくって……



「…真央ちゃん…おっぱい丸出しだよ??いいの??」


「ガバッ!!」


鳴人の言葉を受けて私は顔を真っ赤にして身体を丸めた。


「…み…見た…??」

上目遣いで鳴人の表情を盗み見する。


「見た見た!!もう、バッチリっ!!」


そう言って鳴人は親指を立ててグーサインで返してきた。

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