送り狼
「…ずっと前から、お前にこの景色を見せてやりたいと思っていた」
そう言って…
銀狼は月を仰ぐ…。
月明かりが銀狼の長い銀髪を照らし、黄金色に美しく輝く…。
それが私の目の前をゆらり、ゆらりと揺れている…。
その美しさは…
息を飲むほどだ…。
「…昨夜は…すまなかった」
ポツリと銀狼が呟いた。
……あ……、
「…もしかして…今夜うちに来たのは
昨日の事、謝ろうと思って来たの…?」
銀狼は黙って頷いた。
…なんだ…そうか、
そうだったんだ…。
銀狼から確かな答えを得て、
私は安堵のため息を吐いていた。
――安堵のため息――??
――どうして――??
私は、一体何に腹を立てていたのだろう?
何を怖がっていたのだろう?
何を告げられるのが怖かったのだろう?
それは、きっと…
銀狼に…
私を…『真央』を
否定されるのが
拒絶されるのが
怖かったんだ。
それが堪らなく嫌だったんだ。
出会った時からずっと…。
ふいに風が吹き抜け、足下の雲海が棚引いた…
その時
私は
自覚してしまったんだ…。
自分が
妖しくも美しいこの男に
淡い恋心を抱いている事を…。