送り狼
鳴人の思惑
闇がより一層その色を深める頃…
鳴人は山神神社にある自室で
一人、苦虫を噛み潰したような思いに駆られていた。
今宵は60年ぶりに山神様が目覚める大切な日だった。
下準備はした。
人柱に近づき、疑われる事なく犬神から引き離す事にも成功した。
抜かりは…ないはずだった。
なのに…
なんだ!?
この様は!!
いつも!いつも!!そうなんだ…!!!
強く噛んだ唇からドロッとした
紅い血が滴る…
それがポトリと握り拳を握る手の甲に落ちた。
それと同時に…
鳴人の表情がクシャクシャに崩れる。
『山神様!山神様!!山神様っ!!!』
言葉にならない切ない思いは雫となって溢れ出る。
『山神様…私を見て下さい。』
鳴人の口から嗚咽が漏れる。
『あなたの為だけに存在する栞(しおり)を、どうか見捨てないで下さい!!』
鳴人の想いが、過去の想いと激しく共鳴する。
鳴人は流れ出る雫も拭わず
厳しい表情で顔を上げた。
僕は繰り返さない!!
同じ事は二度と繰り返さない!!
その瞳は鬼気迫るものだった。
あの時と同じ事は、同じ想いは…
もう、二度と繰り返さないっ!!