空の下の約束

星野は怒っていた。


診察が終わって病室を出ると、エレベーターに乗る美空が見えた。


その瞬間全てを悟った。


黙って消えようとする彼女、絶対に診察になんて来ないであろう彼女、ここで最後になるかもしれない不安…


こんなに必死に女性…今はもちろん患者…を追ってしまう自分。


バカみたいだと分かっていても止まらなかった。


いつも冷静沈着だった自分はどこへいってしまったのかと自分が情けなく思える。


いっきにエレベーターまで走ろうとする自分の腕をナースの木下が掴んだ。


「先生！どうしたんですか？！彼女はただの患者さんですよ！目を覚ましてください！」


自分でも驚くほど冷たい声がでた。


「離せ。ただの患者って事ぐらい分かってる。その患者を傷つけてしまったのは誰だ…」


木下は星野の迫力にユックリと手を離した。


それと同時に非常階段の方へと走り出し、怒りと焦りと不安が入り交じった感情に押し流されそうだった。


木下は星野の後ろ姿を見つめながら歯ぎしりをし、業務へと戻るべくきびすを返した。