全ての想いはビードロの中に
タイトル未編集
ビードロは、ポルトガル語でガラスを意味しますが、ちなみにビードロは玩具としての意味合いをもつポッペンと言う言い方としても定着しています。

尚、ポッペンは底の部分がとても薄くなっていて細い棒の部分を咥(くわ)えて息を入れると、底の部分が弾力で『ポッ』っと膨らみ、咥えている口を放すと『ペン』とへこむ音がします。

そしてポッペンは音を鳴らすだけの玩具ではなく。この音で一年の厄を追い祓(はら)うと言う意味もあります。

遠い記憶を遡(さかのぼ)れば想い出す。あの暑い夏の日の縁日での一コマ。
丁度その時期はお盆休みを利用して兄が両親に彼女を紹介すると言って、何年かぶりに田舎に帰って来た日でもあった。

そして両親との挨拶も無事に済み兄の恋人坂口真央里(さかぐち まをり)はとても珍しいダリアの花柄の浴衣を持参して来ていた。なので早速僕の母に浴衣の着付けを手伝ってもらい、ロングの髪をアップにして母から渡された団扇(うちわ)を蝶々結びの帯に突き刺して赤い鼻緒の下駄を履き、お揃いの浴衣を着せられた僕達三人は近所の夏祭りに繰り出した。

尚、君は都会育ちなので田舎のお祭りを見たことがないとかで、今回のお祭りをとても楽しみにしていたと無邪気に話していたっけ。

そして君は兄にリンゴ飴や水風船を買ってもらっては、好奇心丸出しで『あれは何?コレは何?』と逐一(ちくいち)兄に質問攻めしていたっけ。

でもって君がもっとも興味を示したのはあのピードロ。そして君は兄にビードロの吹き方を教わっては一生懸命にビードロを吹いていたっけ。

その必死な君の顔が妙に可笑し過ぎて僕が大笑いすると、兄と君も僕につられて三人で大笑い……。

その後兄と君と僕との三人で慌ただしく観光地を回り、そんな楽しい日々が過ぎる頃には僕はすっかり君に恋をしてしまっていた。
でもやがて兄と君との間に子供が出来た時点で僕は君への思いを封印せざるを得なかった。

そして数年後突然兄の悲報の知らせを受け兄の元を訪れた僕は、君の二歳になる娘璃里(りり)から父親に間違われ『パパ』と呼ばれた。そんな僕は君にはじめて会った日の君への想いの封印をといだ。

そうつまり僕は君の娘璃里をダシにまんまと君の気持ちを僕に向けさせる事に成功したって訳。

が、しかしやがて璃里が成長して僕が本当の父親じゃないと知る日が来る事は確か。ちなみにその時の言い訳をどうしようかと、ひとしきり考えあぐねて思わずクスリと僕が笑うと、キッチンで夕食の支度をしている君が幾分怪訝(けげん)そうに振り向いた……。
< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

公開作品はありません

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop