どこからどこまで
「沙苗ちゃん、もうおねむ?でかける直前まで寝てたのに?」

「寝ないよ~、助手席すわったんだもん。寝ちゃったら助手の意味ないじゃん」

「スマフォのナビあるし大丈夫だよ。眠かったら寝て」

「っていう翔ちゃんも眠たげだけど……平気?」


 翔ちゃんがCDのボリュームを落とした。

 シングルCD、トラック3。ノンヴォーカル。メロディーだけが流れている。これは寝てしまいそうだ。


「平気。薫も寝ていいよ。……あ、トイレとか飲み物とか、何かあったら言って。コンビニ寄るから」

「翔ちゃんも仮眠必要だったら言ってよね」

「そんなに心配しなくても、人乗せてるときは大丈夫だよ。事故ったりなんかしないから安心して」

「いや、あの、翔ちゃん…ひとりで乗ってるときも気をつけてね……?」


 聞き捨てならない言い回しに、眠気がどこかへいってしまった。

 運転席に体ごと向ける勢いでそう返すと返ってきたのは困ったような笑顔だった。


「うん、ありがとう」


 "まる2年無事故だし、大丈夫"と付け加えて。

 翔ちゃんの運転の腕はよい方だとは思っている。しかし居眠り運転の果てに事故、だなんて笑い話じゃ済まされない。誰かを乗せているときではなくても、このまま安全運転でお願いしたいところだ。


「そういえば、沙苗ちゃんは免許とらないの?」


 急ブレーキ知らずの安全運転に安心しながら戻りかけてきた眠気に意識をもっていかれそうなったところへ、薫が話題をふってきた。

 寝かせないつもりなのだろうか。寝る気はないためありがたいといえばありがたいのだが。


「え~?いいかなー、別に。免許とっても車乗らないだろうし」

「まずすぐ事故りそうだもんね」

「またそうやってばかにするー!」

「ばかにはしてないよ?だって沙苗ちゃんなんだもん」

「意味わかんない」

「わかる気がする……」

「翔ちゃんまで!」


 "縁石乗り上げても気づかなそうなんだもん、さな"と付け加えて翔ちゃんは苦笑した。

 そんなこんなで雑談をしているうちに、あたしの頭は意識に反して下へ下へと沈んでいった。

 グラグラと揺れる頭を優しくおさえつけられた、という記憶を最後に意識が遠のいていく。

 あーあ、寝ないって言ったのに。

 ごめん、翔ちゃん。

 寝ずに運転をしてくれている翔ちゃんに謝りながら、あたしは意識を手放した。
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