Don't forget “my memory…”

何も音がしない…
何も周りにはない…
何も感じない…

暗闇の中、この何もない空間に、1人の女性が座り込み、悲しそうな瞳をする姿があった…


その女性の、悲しい瞳の先には……
1人の男性の後ろ姿…


その男性は、この暗闇の空間を退くかのように、1つの光の元へと歩んで行く…

彼女を、置いて…



彼女から離れていく男性…

一歩一歩、距離が広まっていく…



そんな彼の後ろ姿を見つめる女性…

彼女は動く事もできずに、この冷たい床の上に座り込み、涙の滲んだ瞳を向ける…



やっと自分の“気持ち”に気づいたのに…

本当の“気持ち”に気づいたのに…

どうして…?

ねぇ、どうして…?


 「ルイ……!」

 「……」


 「ルイ!」

 「……」

何度彼の名を呼ぼうと、彼は振り返る事すらしなかった…


一粒の大きな雫が、綺麗な彼女の頬を伝う…

これは、悲しみの、涙…

胸を押しつぶすような、苦しい痛み…


 「置いてかないで…!」

彼女のこの苦しみなど知るすべもなく、光へと消えていく彼の姿…


 「置いてかないで!」

見えなくなる後ろ姿へと手を伸ばし、届く事のない彼を待つ…


しかし彼は戻らない彼女の元へは…


 「ルイ!!」


彼の姿は消え、暗闇へと差し込む一筋の光さえも姿を消した…


光の差さないこの暗闇の中、悲しみにくれる彼女は、ただ1人、取り残されたのだった…


彼女の嘆くその声だけが、何もないこの空間に響き渡る…

そして、その声さえも消してしまうように、彼女の全てを、闇が覆う…


< 8 / 29 >

この作品をシェア

pagetop